日本文学名作系列:心理测试(日文版)(txt+pdf+epub+mobi电子书下载)


发布时间:2020-06-28 11:02:18

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作者:江户川乱步

出版社:华东理工大学出版社

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日本文学名作系列:心理测试(日文版)

日本文学名作系列:心理测试(日文版)试读:

出版社:华东理工大学出版社出版时间:2018-05-23ISBN:9787893902703本书由华东理工大学出版社有限公司授权北京当当科文电子商务有限公司制作与发行。— · 版权所有 侵权必究 · —一

ふきやせいいちろうなぜしるようおそあくじ蕗屋清一郎が、何故これから記す様な恐ろしい悪事をおもいたどうきくわわかまた思立ったか、その動機については詳しいことは分らぬ。又たといわかはなしたいかんけいかれ仮令分ったとしてもこのお話には大して関係がないのだ。彼くがくみだいがくかよところがなかば苦学見たいなことをして、ある大学に通っていた所みがくしひつようせまかんがかれを見ると、学資の必要に迫られたのかとも考えられる。彼はまれみしゅうさいしかひじょうべんきょうかがくし稀に見る秀才で、而も非常な勉強家だったから、学資をえためないしょくときとすどくしょし得る為に、つまらぬ内職に時を取られて、好きな読書や思さくじゅうぶんできざんねんおもたし索が十分出来ないのを残念に思っていたのは確かだ。だぐらいりゆうにんげんだいざいおかが、その位の理由で、人間はあんな大罪を犯すものだろう

おそかれせんてんてきあくにんしか。恐らく彼は先天的の悪人だったのかも知れない。そし

がくしほかさまざまよくぼうおさかして、学資ばかりでなく他の様々な慾望を抑え兼ねたのかも知とかくかれおもはんとしれない。それは兎も角、彼がそれを思いついてから、もう半年あいだかれまよまよかんがかんがあげくになる。その間、彼は迷いに迷い、考えに考えた揚句、けっきょくけっしん結局やッつけることに決心したのだ。ときかれどうきゅうせいさいとういさむ

ある時、彼はふとしたことから、同級生の斎藤勇としたことおこはじむろんなんせいしん親しくなった。それが事の起りだった。初めは無論何の成心わけしかちゅうとかれがあった訳ではなかった。併し中途から、彼はあるおぼろげなもくてきいださいとうせっきんいせっきんい目的を抱いて斎藤に接近して行った。そして、接近して行

したがもくてきだんだんきくに随って、そのおぼろげな目的が段々はっきりして来た。

さいとういちねんまえやまてさびやしき斎藤は、一年ばかり前から、山の手のある淋しい屋敷まちしろうとやへやかいえあるじかんりみ町の素人屋に部屋を借りていた。その家の主は、官吏の未ぼうじんろくじゅうちかろうばぼうふ亡人で、といっても、もう六十に近い老婆だったが、亡夫のこいすうけんしゃくやのぼりえきじゅうぶんせいかつの遺して行った数軒の借家から上る利益で、十分生活できかかわこどもめぐかのじょが出来るにも拘らず、子供を恵まれなかった彼女は、「ただも

かねかくじつしりあこがねかうお金がたよりだ」といって、確実な知合いに小金を貸したりすこちょきんふやいこのうえたのして、少しずつ貯金を殖して行くのを此上もない楽しみにしさいとうへやかひとおんなくらていた。斎藤に部屋を貸したのも、一つは女ばかりの暮しでぶようじんりゆういっぽうへやは不用心だからという理由もあっただろうが、一方では部屋だいだまいつきちょきんがくふかんじょうい代丈けでも、毎月の貯金額が殖えることを勘定に入れてい

そういかのじょいまどきあまきはなしたに相違ない。そして彼女は、今時余り聞かぬ話だけれど

しゅせんどしんりここんとうざいつうおなみも、守銭奴の心理は、古今東西を通じて同じものと見え

ひょうめんてきぎんこうよきんほかばくだいげんきんじたくる、表面的な銀行預金の外に、莫大な現金を自宅のあひみつばしょかくうわさる秘密な場所へ隠しているという噂だった。

ふきやかねゆうわくかん蕗屋はこの金に誘惑を感じたのだ。あのおいぼれが、そんたいきんもなんかちおれな大金を持っているということに何の価値がある。それを俺のようみらいせいねんがくししようきわごうりてき様な未来のある青年の学資に使用するのは、極めて合理的かんたんいかれりろんなことではないか。簡単に云えば、これが彼の理論だった。そ

かれさいとうつうできだろうばちしきえこで彼は、斎藤を通じて出来る丈け老婆についての智識を得たいきんひみつかくばしょさぐしかようとした。その大金の秘密な隠し場所を探ろうとした。併かれときさいとうぐうぜんかくばしょはっけんし彼は、ある時斎藤が、偶然その隠し場所を発見したといきべつかくていてきかんがえもわけうことを聞くまでは、別に確定的な考を持っていた訳でもなかった。きみばあかんしんおもたいてい

「君、あの婆さんにしては感心な思いつきだよ、大抵、ふちしたてんじょううらかねかくばしょきま縁の下とか、天井裏とか、金の隠し場所なんて極っているばあちょっといがいところおくざしきものだが、婆さんのは一寸意外な所なのだよ。あの奥座敷とこまおおこうよううえきばちおの床の間に、大きな紅葉の植木鉢が置いてあるだろう。あのうえきばちそこかくばしょどろぼう植木鉢の底なんだよ。その隠し場所がさ。どんな泥坊だって、うえきばちかねかくきばあまさか植木鉢に金が隠してあろうとは気づくまいからね。婆さいみしゅせんどてんさいんは、まあ云って見れば、守銭奴の天才なんだね」ときさいとういおもしろわら

その時、斎藤はこう云って面白そうに笑った。いらいふきやかんがえすこぐたいてきい

それ以来、蕗屋の考は少しずつ具体的になって行った。ろうばかねじぶんがくしふりかけいろひとひと老婆の金を自分の学資に振替える径路の一つ一つについかのうせいかんじょういうえもっとあんぜんほうほうて、あらゆる可能性を勘定に入れた上、最も安全な方法かんがだよそういじょうこんなんしごとを考え出そうとした。それは予想以上に困難な仕事だった。くらふくざつすうがくもんだいこれに比べれば、どんな複雑な数学の問題だって、なんでもかれさきいようかんがえまとだためなかった。彼は先にも云った様に、その考を纏める丈けの為はんとしつぶやに半年を費したのだ。

なんてんいいかけいばつまぬが難点は、云うまでもなく、如何にして刑罰を免れるかとりんりじょうしょうがいすなわりょうしんかしゃくいうことにあった。倫理上の障礙、即ち良心の呵責ようかれもんだいかれという様なことは、彼にはさして問題ではなかった。彼はナポおおがかさつじんざいあくかんがむしさんびレオンの大掛りな殺人を罪悪とは考えないで、寧ろ讃美す

おなようさいのうせいねんさいのうそだためると同じ様に、才能のある青年が、その才能を育てる為かんおけかたあしこぎせいきょうに、棺桶に片足をふみ込んだおいぼれを犠牲に供することを、とうぜんおも当然だと思った。

ろうばめったがいしゅつしゅうじつもくもくおく老婆は滅多に外出しなかった。終日黙々として奥のざしきまるがいしゅつる座敷に丸くなっていた。たまに外出することがあっても、留すちゅういなかものじょちゅうかのじょいのちうしょうじきみ守中は、田舎者の女中が彼女の命を受けて正直に見はりばんつとふきやくしんかかわろうばよう張番を勤めた。蕗屋のあらゆる苦心にも拘らず、老婆の用じんすこすきろうばさいとうときみ心には少しの隙もなかった。老婆と斎藤のいない時を見はかじょちゅうだまつかいだなにすきらって、この女中を騙して使に出すか何かして、その隙にれいかねうえきばちぬすだふきやさいしょふう例の金を植木鉢から盗み出したら、蕗屋は最初そんな風にかんがみしかはなはむぶんべつかんがえたといすこ考えて見た。併しそれは甚だ無分別な考だった。仮令少まいえひとりわかしの間でも、あの家にただ一人でいたことが分っては、もうそれだじゅうぶんけんぎかれしゅ丈けで十分嫌疑をかけられるではないか。彼はこの種のさまざまおろほうほうかんがうちけかんがうちけ様々な愚かな方法を、考えては打消し、考えては打消すいっげつつぶやたとさいとうじょのに、たっぷり一ヶ月を費した。それは例えば、斎藤か女ちゅうまたふつうどろぼうぬすみ中か又は普通の泥坊が盗んだと見せかけるトリックだとか、じょちゅうひとりときすこおとたしのびこかのじょ女中一人の時に少しも音を立てないで忍込んで、彼女のめようぬすだほうほうよなかろうばねむ目にふれない様に盗み出す方法だとか、夜中、老婆の眠って

あいだしごとほうほうそのほかかんがばいる間に仕事をする方法だとか、其他考え得るあらゆる場あいかれかんがしかはっかくかのう合を、彼は考えた。併し、どれにもこれにも、発覚の可能せいたぶんふく性が多分に含まれていた。ろうばほかかれついおそ

どうしても老婆をやっつける外はない。彼は遂にこの恐ろ

けつろんたっろうばかねほどわかしい結論に達した。老婆の金がどれ程あるかよく分らぬけれ

いろいろてんかんがさつじんきけんおかしゅうど、色々の点から考えて、殺人の危険を犯してまで執ちゃくほどたいきんがくおもしかねため着する程大した金額だとは思われぬ。たかの知れた金の為なんつみひとりにんげんころしまあまに何の罪もない一人の人間を殺して了うというのは、余りにざんこくすしかたといせけんひょうじゅんみ残酷過ぎはしないか。併し、仮令それが世間の標準から見

たいきんがくびんぼうふきやじゅうぶんまんぞくでては大した金額でなくとも、貧乏な蕗屋には十分満足出きかれかんがえもんだいきんがくた来るのだ。のみならず、彼の考によれば、問題は金額の多しょうはんざいはっかくぜったいふかのう少ではなくて、ただ犯罪の発覚を絶対に不可能ならしめるためおおぎせいはらすこことだった。その為には、どんな大きな犠牲を払っても、少しさしつかえも差支ないのだ。

さつじんいっけんたんせっとういくそうばいきけんし殺人は、一見、単なる窃盗よりは幾層倍も危険な仕ごとようみいっしゅさっかくす事の様に見える。だが、それは一種の錯覚に過ぎないのだ。なるほどはっかくよそうしごとさつじん成程、発覚することを予想してやる仕事なれば殺人はあら

はんざいなかもっときけんそういしかもはんざいゆる犯罪の中で最も危険に相違ない。併し、若し犯罪のけいちょうはっかくなんいめやすかんがば軽重よりも、発覚の難易を目安にして考えたならば、場あいたとふきやばあいごとむしせっとうほう合によっては(例えば蕗屋の場合の如きは)寧ろ窃盗の方があやうしごとかえあくじはっけんしゃ危い仕事なのだ。これに反して、悪事の発見者をバラしてしまほうほうざんこくかわしんぱいむかしえらあく了う方法は、残酷な代りに心配がない。昔から、偉い悪にんへいきひとごろかれら人は、平気でズバリズバリと人殺しをやっている。彼等がなかなかかえだいたんさつじんかげ却々つかまらぬのは、却ってこの大胆な殺人のお蔭なのではなかろうか。ろうばはたきけん

では、老婆をやっつけるとして、それには果して危険がなもんだいふきやすうげつあいだかんがいか。この問題にぶッつかってから、蕗屋は数ヶ月の間考とおながあいだかれふうかんがえそだえ通した。その長い間に、彼がどんな風に考を育てておこなものがたりすすしたがどくしゃわか行ったか。それは物語が進むに随って、読者に分ることはぶとかくかれとうていふつうじんかんがだから、ここに省くが、兎も角、彼は、到底普通人の考えおよできほどびいさいうがぶんせきならびそうごう及ぶことも出来ない程、微に入り細を穿った分析並に綜合けっかちりひとすじてぬぜったいあんぜんほうほうの結果、塵一筋の手抜かりもない、絶対に安全な方法をかんがだ考え出したのだ。

いまじきくまあん今はただ、時機の来るのを待つばかりだった。が、それは案がいはやきひさいとうがっこうかんけいじょちゅう外早く来た。ある日、斎藤は学校関係のことで、女中はつかいだふたりともゆうがたけっきたく使に出されて、

人共夕方まで決して帰宅しないことがたしかちょうどふきやさいごじゅんびこういおわ確められた。それは丁度蕗屋が最後の準備行為を終っひふつかめさいごじゅんびこういた日から二日目だった。その最後の準備行為というのは(こだまえもっせつめいおひつようかさいとうれいれ丈けは前以て説明して置く必要がある)嘗つて斎藤に例かくばしょきはんとしけいかきょうの隠し場所を聞いてから、もう半年も経過した今日、それがまとうじたしかためあこういだ当時のままであるかどうかを確める為の或る行為だった。かれひすなわろうばごろふつかまえさいとうたずついで彼はその日(即ち老婆殺しの二日前)斎藤を訪ねた序

はじろうばへやおくざしきはいかのじょいろいろに、初めて老婆の部屋である奥座敷に入って、彼女と色々せけんばなしとりかわかれせけんばなしじょじょひとほう世間話を取交した。彼はその世間話を徐々に一つの方こうおといしばしばろうばざいさん向へ落して行った。そして、屡々老婆の財産のこと、それをかのじょかくうわさくち彼女がどこかへ隠しているという噂のあることなぞ口にし

かれかくことばでごとろうばめた。彼は「隠す」という言葉の出る毎に、それとなく老婆の眼ちゅういかのじょめかれよきとおを注意した。すると、彼女の眼は、彼の予期した通り、そのつどとこまうえきばちときこうようまつう都度、床の間の植木鉢(もうその時は紅葉ではなく、松に植そそふきやすうえかえてあったけれど)にそっと注がれるのだ。蕗屋はそれを数かいくりかえもはやすこうたがよちたしか回繰返して、最早や少しも疑う余地のないことを確めるこできとが出来た。二いよいよとうじつかれだいがくせいふくせいぼううえ

さて、愈々当日である。彼は大学の正服正帽の上にがくせいちゃくようてぶくろもくてきば学生マントを着用し、ありふれた手袋をはめて目的の場しょむかかれかんがかんがうえけっきょくへんそう所に向った。彼は考えに考えた上、結局変装しないこ

きわもへんそうざいりょうかいいとに極めたのだ。若し変装をするとすれば、材料の買入れ、きがばしょそのほかさまざまてんはんざいはっかくてがかのこ着換えの場所、其他様々の点で、犯罪発覚の手掛りを残ものごとふくざつすこすことになる。それはただ物事を複雑にするばかりで、少しもこうかはんざいほうほうはっかくおそはんい効果がないのだ。犯罪の方法は、発覚の虞れのない範囲においできかぎたんじゅんかい於ては、出来る限り単純に且つあからさまにすべきだと云うかれいっしゅてつがくようもくてきいえはいところのが、彼の一種の哲学だった。要は、目的の家に入る所みたといいえまえかよを見られさえしなければいいのだ。仮令その家の前を通ったことわかすこさしつかえかれそのへんさんぽが分っても、それは少しも差支ない。彼はよく其辺を散歩とうじつさんぽいぬすることがあるのだから、当日も散歩をしたばかりだと云い抜できどうじいっぽうおいかれもくてきいえいけることが出来る。と同時に一方に於て、彼が目的の家に行とちゅうしりあひとみばあいかんく途中で、知合いの人に見られた場合(これはどうしても勘じょういおみょうへんそうほう定に入れて置かねばならぬ)妙な変装をしている方がいいとおせいふくせいぼうほうかんがみか、ふだんの通り正服正帽でいる方がいいか、考えて見るはんざいじかんまつごうまでもないことだ。犯罪の時間についても待ちさえすれば都合

よるさいとうじょちゅうふざいよるわかよい夜が――斎藤も女中も不在の夜があることは分っているなぜかれきけんひるまえらふくそうばあいのに、何故彼は危険な昼間を選んだか。これも服装の場合とおなはんざいふひつようひみつせいのぞため同じく、犯罪から不必要な秘密性を除く為だった。

しかもくてきいえまえたときさすがかれふつう併し目的の家の前に立った時だけは、流石の彼も、普通どろぼうとおおそかれらいじょうぜんの泥棒の通りに、いや恐らく彼等以上に、ビクビクして前ごさゆうみまわろうばいえりょうどなりいけがきさかい後左右を見廻した。老婆の家は、両隣とは生垣で境しいっけんたむこうがわふごうていたくたかた一軒建ちで、向側には、ある富豪の邸宅の高いコンクへいいっちょうつづさびやしきまちリート塀が、ずっと一町も続いていた。淋しい屋敷町だか

ひるまときどきひとどおふきやら、昼間でも時々はまるで人通りのないことがある。蕗屋がたどときあんばいとおいぬこいっぴきみそこへ辿りついた時も、いい鹽梅に、通りには犬の子一匹見あたかれふつうひらばかきんぞくせいおと当らなかった。彼は、普通に開けば馬鹿にひどい金属性の音こうしどすこおとたようかいのする格子戸を、ソロリソロリと少しも音を立てない様に開へいげんかんどまごひくこえりん閉した。そして、玄関の土間から、極く低い声で(これらは隣かようじんあんないころうばでくかれさい家への用心だ)案内を乞うた。老婆が出て来ると、彼は、斎とうすこないみつはなたこうじつ藤のことについて少し内密に話し度いことがあるという口実

おくまかよで、奥の間に通った。ざさだまじょちゅうお

座が定まると間もなく、「あいにく女中が居りませんので」ことわろうばちゃくたふきやと断りながら、老婆はお茶を汲みに立った。蕗屋はそれを、いまいままちかまかれろうばふすまあため今か今かと待構えていたのだ。彼は、老婆が襖を開ける為すこみかがときあとだりょううでに少し身を屈めた時、やにわに後から抱きついて、両腕をつかてぶくろゆびあと使って(手袋ははめていたけれども、なるべく指の痕はつけまちからくびしろうばのどところいとしてだ)力まかせに首を絞めた。老婆は咽の所でグッと

ようおとだたいもがいう様な音を出したばかりで、大して藻掻きもしなかった。ただ、くるそらつかゆびさきたびょうぶ苦しまぎれに空を掴んだ指先が、そこに立ててあった屏風にふすこきずこしらにまいおりじだい触れて、少しばかり傷を拵えた。それは二枚折の時代のついきんびょうぶごくさいしきろっかせんかちょうた金屏風で、極彩色の六歌仙が描かれていたが、その丁どおのこまちかおところむざんいっすんばかやぶ度小野の小町の顔の所が、無惨にも一寸許り破れたのだ。ろうばいきたみさだかれしがいよこ老婆の息が絶えたのを見定めると、彼は死骸をそこへ横にし

いっすんきようすびょうぶやぶながしかて、一寸気になる様子で、その屏風の破れを眺めた。併し

かんがみすこしんぱいよく考えて見れば、少しも心配することはない。こんなものがなんしょうこはずかれもくてきとこま何の証拠になる筈もないのだ。そこで、彼は目的の床の間へいれいまつきねもともつちうえ行って、例の松の木の根元を持って、土もろともスッポリと植きばちひきぬよきとおそこあぶらがみつつ木鉢から引抜いた。予期した通り、その底には油紙で包んいかれおつつとだものが入れてあった。彼は落ちつきはらって、その包みを解い

みぎひとあたらおおがたさいふとりだて、右のポケットから一つの新しい大型の財布を取出し、しへいはんぶんじゅうぶんごせんえんなかい紙幣を半分ばかり(十分五千円はあった)その中に入れる

さいふもとおさのこしへいあぶらがみつつと、財布を元のポケットに納め、残った紙幣は油紙に包んまえとおうえきばちそこかくむろんかねぬすで前の通りに植木鉢の底へ隠した。無論、これは金を盗んだしょうせきくらためろうばちょきんたかろうばじしんという証跡を晦ます為だ。老婆の貯金の高は、老婆自身しはんぶんだれうたがが知っていたばかりだから、それが半分になったとて、誰も疑はずう筈はないのだ。     かれざぶとんまるろうばむね

それから、彼はそこにあった座蒲団を丸めて老婆の胸にあちしおとようじんひだりいちていてがい(これは血潮の飛ばぬ用心だ)左のポケットから一挺とりだはひらしんぞうのジャックナイフを取出して歯を開くと、心臓をめがけてグとつさひとえぐおひきぬおなサッと突差し、グイと一つ抉って置いて引抜いた。そして、同ざぶとんぬのちきれいふともとじ座蒲団の布でナイフの血のりを綺麗に拭き取り、元のポケッ

おさかれしころそせいおそトへ納めた。彼は、絞め殺しただけでは、蘇生の虞れがあるとおもむかしさやつなぜ思ったのだ。つまり昔のとどめを刺すという奴だ。では、何故さいしょはものしよう最初から刃物を使用しなかったかというと、そうしてはひょっじぶんきものちしおしおそとして自分の着物に血潮がかかるかも知れないことを虞れたのだ。いっすんかれしへいいさいふいま

ここで一寸、彼が紙幣を入れた財布と今のジャックナイせつめいおかれもくフについて説明して置かねばならぬ。彼は、それらを、この目てきだつかためえんにちろてんかいもとかれ的丈けに使う為に、ある縁日の露店で買求めたのだ。彼は

えんにちもっとにぎわじぶんみはかもっときゃくこその縁日の最も賑う時分を見計らって、最も客の込んみせえらしょうふだどおこぜになげだしなものとでいる店を選び、正札通りの小銭を投出して、品物を取る

しょうにんもちろんたくさんきゃくたちかれかおきおくひまと、商人は勿論、沢山の客達も、彼の顔を記憶する暇ほどひじょうすばやすがたくらがなかった程、非常に素早く姿を晦ました。そして、このしなものりょうほうごなんめじるしえよう品物は両方とも、極くありふれた何の目印もあり得ない様なものだった。ふきやじゅうぶんちゅういすこてがかのこ

さて、蕗屋は、十分注意して少しも手掛りが残ってたしかあとふすまわすげんいないのを確めた後、襖のしまりも忘れないでゆっくりと玄かんできかれくつひもしあしあと関へ出て来た。彼はそこで靴の紐を締めながら、足跡のことをかんがみてんさしんぱいげんかん考えて見た。だが、その点は更らに心配がなかった。玄関のどまかたしっくいおもてとおてんきつづかわ土間は堅い漆喰だし、表の通りは天気続きでカラカラに乾こうしどあおもてでのこいていた。あとには、もう格子戸を開けて表へ出ることが残っようすべているばかりだ。だが、ここでしくじる様なことがあっては、凡くしんみずあわかれみみすましんぼうづよおもてての苦心が水の泡だ。彼はじっと耳を澄して、辛抱強く表どおあしおときなんき通りの跫音を聞こうとした。……しんとして何の気はいもない。うちことだんおとしごくきこどこかの内で琴を弾じる音がコロリンシャンと至極のどかに聞かれおもいきしずこうしどあえているばかりだ。彼は思切って、静かに格子戸を開けた。なにげいとまきゃくさまようかおそして、何気なく、今暇をつげたお客様だという様な顔をし

おうらいであんじょうひとかげて、往来へ出た。案の定そこには人影もなかった。     いちかくとおさびやしきまちろうばいえ

その一劃はどの通りも淋しい屋敷町だった。老婆の家かよんごちょうへだところなにやしろふるいしがきおうらいら四五町隔った所に、何かの社の古い石垣が、往来にめんつづふきやだれみたしか面してずっと続いていた。蕗屋は、誰も見ていないのを確めうえいしがきすきまきょうきちた上、そこの石垣の隙間から兇器のジャックナイフと血のつてぶくろおとこさんぽときたちよいた手袋とを落し込んだ。そして、いつも散歩の時には立寄ふきんちいこうえんめあるることにしていた、附近の小さい公園を目ざしてブラブラと歩いかれこうえんこしこどもたちいて行った。彼は公園のベンチに腰をかけ、子供達がブランのあそいかのどかかおながコに乗って遊んでいるのを、如何にも長閑な顔をして眺めなが

ながじかんすごら、長い時間を過した。

かえかれけいさつしょたちよ帰りがけに、彼は警察署へ立寄った。そして、いまがたさいふひろだいぶたくさんはい

「今し方、この財布を拾ったのです。大分沢山入って

ようとどいる様ですから、お届けします」いながれいさいふだかれじゅんさしつもん

と云い乍ら、例の財布をさし出した。彼は巡査の質問こたひろばしょじかんもちろんかのうせいに答えて、拾った場所と時間と(勿論それは可能性のあるでたらめじぶんじゅうしょせいめい出鱈目なのだ)自分の住所姓名と(これはほんとうの)をこたいんさつかみかれせいめいきんがくかい答えた。そして、印刷した紙に彼の姓名や金額などを書き入

うけとりしょうみもらほどひじょうれた受取証見たいなものを貰った。なる程、これは非常にうえんほうほうそういしかあんぜんてんさいじょう迂遠な方法には相違ない。併し安全という点では最上

ろうばかねはんぶんだれしだ。老婆の金は(半分になったことは誰も知らない)ちゃんともとばしょさいふいしつしゅぜったいで元の場所にあるのだから、この財布の遺失主は絶対に出るはずいちねんあとまちがいふきやてお筈がない。一年の後には間違なく蕗屋の手に落ちるのだ。そだれはばかおおつかかれかんがぬあげくして、誰憚らず大びらに使えるのだ。彼は考え抜いた揚句

しゅだんともかくおこの手段を採った。若しこれをどこかへ隠して置くとするか、どぐうぜんたにんよこどじぶんうした偶然から他人に横取りされまいものでもない。自分でもかんがきけん持っているか、それはもう考えるまでもなく危険なことだ。のほうほうまんいちろうばしへいばんごうひかみならず、この方法によれば、万一老婆が紙幣の番号を控すこしんぱいもっとてんできえていたとしても少しも心配がないのだ。(尤もこの点は出来ださぐだいたいあんしんる丈け探って、大体安心はしていたけれど)じぶんぬすしなものけいさつとどやつ

「まさか、自分の盗んだ品物を警察へ届ける奴があろうしゃかさまごぞんとは、ほんとうにお釈迦様でも御存じあるまいよ」

かれわらころこころなかつぶや彼は笑いをかみ殺しながら、心の中で呟いた。

よくじつふきやげしゅくいっしつつねかわあんみん翌日、蕗屋は、下宿の一室で、常と変らぬ安眠からめざあくびまくらもとはいたつしんぶん目覚めると、欠伸をしながら、枕許に配達されていた新聞ひろしゃかいめんみわたかれいがいじじつはっを拡げて、社会面を見渡した。彼はそこに意外な事実を発けんちょっとおどろけっしんぱいようこと見して一寸驚いた。だが、それは、決して心配する様な事がらかえかれためよきしあわ柄ではなく、却って彼の為には予期しない仕合せだった。といゆうじんさいとうけんぎしゃあけんぎうのは、友人の斎藤が嫌疑者として挙げられたのだ。嫌疑をうりゆうかれみぶんふそうおうたいきんしょじ受けた理由は、彼が身分不相応の大金を所持していたから

しるだと記してある。おれさいとうもっとしたともだちけいさつ

「俺は斎藤の最も親しい友達なのだから、ここで警察しゅっとういろいろとただしぜんへ出頭して、色々問い訊すのが自然だな」

ふきやさっそくきものきがあわけいさつしょでか蕗屋は早速着物を着換えると、遽てて警察署へ出掛けかれきのうさいふとどおなやくしょなぜさいふた。それは彼が昨日財布を届けたのと同じ役所だ。何故財布とどかんかつちがけいさつを届けるのを管轄の違う警察にしなかったか。いや、それとてまたかれいちりゅうむぎこうしゅぎわざかれも亦、彼一流の無技巧主義で態としたことなのだ。彼は、かふそくていどしんぱいそうかおさいとうあく過不足のない程度に心配相な顔をして、斎藤に逢わせて呉

たのしかよきとおゆるれと頼んだ。併し、それは予期した通り許されなかった。そこ

试读结束[说明:试读内容隐藏了图片]

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